東京国立博物館で2013年4月9日から始まった「国宝 大神社展」、私もさっそくその初日に見学。
神宝や神像などいっぱいの会場で、閉館までたっぷり「国宝」漬けになってきました。
興味あるものがいろいろある中で、まずは千葉県民として香取神宮のご神宝「海獣葡萄鏡」に注目。
明治まで秘宝だったこの鏡は、今は香取神宮宝物館で公開されているので、いつもでも見られるのですが、今回のように他の古い神鏡と一緒に東博で展示されていると、しっかり見ようという気になります。
香取神宮宝物館での展示では、「別名海馬葡萄鏡、中国隋時代の作品。鏡面の内区に八頭の親海馬と子海馬の戯れる一状を葡萄唐草の上に配置、外区には葡萄唐草の上に雞雉鹿朱雀の雌雄を配している。・・・(後略)」と書かれていて、「海馬」なるものがいったい何かという疑問を持っていました。(トド、アザラシ、あるいはラッコ?)
香取神宮「海獣葡萄鏡」の内区部分、2010.11.4 香取神社宝物館にて撮影
さてこの日、東博で目を凝らして見ても、フツウの動物。
「大神社展」の図録解説には、「内区に獅子、界圏に蝶・蜻蛉・蜂・蟷螂、外区に孔雀・雉・鳳凰・鴛鴦・獅子・鹿・馬とあらわす。外縁の雲文、中央に獣鈕を据える。(中略)禽獣葡萄鏡ともよばれる。」
では、いったい海馬はどこに?
「海獣葡萄鏡」の界圏・外区・外縁部分
気になって、帰ってから『ふさの国の文化財総覧』(千葉県文化財センター発行)で見てみると「鏡の中央に(中略)、海獣(さん猊*)の鈕を置きます。」とあり、他の紋様については昆虫や小鳥、獅子・麒麟・鶏、以下は東博図録と同じ動物たちです。(さん猊*の「さん」=「けものへん」+「俊」の旁)
どうも、「海獣」の意味は、真ん中の鈕の動物のことらしい。
「さん猊」をネットで調べると、「中国の伝説上の生物である。竜が生んだ九匹の子である竜生九子の一匹」また、「海獣とは海の獣という意味ではなくて、唐の国にとって砂漠の向こうという意味であり『海外の獣』という意味」だそうだ。
「猊下」の意味も、この「さん猊」の意匠の椅子=猊座の下(もと)に居る者のこととのこと。(By.ウィキペディア、参考文献:福永伸哉「三角縁神獣鏡の研究」)
海獣はトドでもアザラシでもなかったのですね。
二十年前の千葉県中央博の「香取の海」展で初めて見た「海獣葡萄鏡」ですが、今頃になってその謎がやっと解けました。
(⇒写真は、香取神宮の楼門と社殿、宝物館の展示)
以上をfacebookに載せると、さっそくKさんが「世界大百科事典」で調べてコメントしてくださいました。
「海獣葡萄鏡」の項から
「…内区には葡萄唐草文の間に大きく獅子,豹,天馬,孔雀,鳳凰などが表され,外区では,同じく葡萄唐草文の間にこれらの禽獣に加えてネズミや猫などの小動物,小鳥,昆虫が見え隠れしている。
宋代や清代の図録類に〈海馬葡萄鑑〉とか〈海獣葡萄鑑〉の名があり,呼びならわされてきているが,とくに海獣または海馬と特定しうる獣形は認めがたく,名称の由来は判然としない。
日本には,正倉院あるいは社寺に伝世された優品も少なくなく,また,法隆寺五重塔心礎埋納物や高松塚古墳副葬品に含まれていて,とくに有名になった…」
今回の東博の企画展図録もそうですが、どの本の図版もトーンが暗すぎたりして紋様までよく見えません。
(文字の銘文があったりすると、細部にまで詳細な図版があるのでしょうが、)
私も図柄をよく見ないまま、意味不明の「海獣」を何となく「海にすむ哺乳類」と思って「納得」していました。
数日して、森豊著『海獣葡萄鏡―シルクロードと高松塚 』(1973年)を読みましたが、そこには、「海獣葡萄鏡は、その名の起源も明らかでない謎をふくんだ鏡である。」と書いてあります。
つまりは、海獣がトドなどの海の動物でないということだけはよくわかりました。
この鏡については、中国の図録類からの名称ではなく、「おめでたい動物と葡萄の文様の鏡」とか、「瑞獣葡萄鏡」に変えた方が、誤解が少ないと、「素人」の私は思います。
いずれにしても、デジタル画像は便利ですね。でも真ん中の「さん猊」の顔を正面から撮りたかったと、今にして思います。
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