M-5 歴博の「中世の古文書 -機能と形-」展内覧会にて
博物館の展示で、一番スルーしやすいのは、古文書の陳列ケースでしょう。
それでいて、館の主催する古文書学習の講座はいつも満杯。
う~ん、展示の方法が悪いのか、いくら重文で貴重でも、絵画や工芸品にはかなわないって、どの担当者も頭を悩ませておられることでしょう。
さて、今年開館30周年を迎えた「歴博」こと国立歴史民俗博物館が、2013年のこの秋、ただでさえ苦手な古文書、しかも中世ばかりという企画に果敢に挑んでいます。
だって、この館が収集した中世文書については「質・量ともに世界一」なんですって。
かくして、企画展タイトルは、「中世の古文書 -機能と形-」。
う~ん、でも難しそう?と思っていたら、HPのプレスリリースにブロガー向け内覧会のお知らせがあり、この展示は「読めなくても大丈夫!」とか。このキャッチフレーズに惹かれてさっそく申込み、10月7日行ってみました。
まずは、ポスター、「この文書は誰が出した?」そして「義経、頼朝、泰時、後醍醐、尊氏、政元、信長・・・」の名。まさに「空前の総合的中世文書展」なんです。
会場に入ると、まず入り口右上にスライドが映し出されます。(無視せず、しばし足を止めて見てみましょう)
あっ、高校教科書にある「源頼朝下文」(1192)だ! でも、キャプションは釈文でなく「とてもいばった書き方(花押は文書の右端)」。
(下に「源頼朝下文」、本物です)
次に、スライドが替わって、左パネルにもある足利尊氏の御教書(1352)はていねいな書き方(花押は日付の下)」(うん、普通)。
でも同じ将軍職でもなんで?
この企画の面白さは、こんな発見の連続にあるようです。
ここにある文書は、名家や寺院に大切に伝えられた伝世の古美術のような文書と、発掘資料のように、裏面が使用された紙の中から発見された紙背文書があり、後者の典型として、「源義経自筆書状」(1185)が展示されています。
義経の自筆文書は世に2通だけとか。
その1通が一度捨てられた紙背文書としてここにある理由は、当時朝敵だった義経の文書に恩賞などの価値がなかったから。
その後、伝説の中に義経がよみがえって、近代の目利きのコレクターに見いだされ、屏風の一部分に表装されて、博物館の所蔵になったというこの文書の運命は、ドラマティックですね。 (義経の書状は屏風の右上角の1枚です)
さて、膨大な「発見」のあるこの企画展示で、私が一番関心のあったのは、「後醍醐天皇綸旨」(1326)などが書かれた黒い料紙でした。
内覧会の後、文書料紙に詳しい富田正弘先生にお聞きすると、これは「宿紙」といって、朝廷の図書寮紙屋院で古紙を漉き直した料紙がルーツだったそうです。
蔵人所では、天皇の命令でも略式の命令であった綸旨や口宣案には、このリサイクル紙を使うことになっていたのが、いつのまにか有職故実となり、中世、特に南北朝のころの天皇の権威づけなどに、黒い紙を使ったとのこと。
後醍醐天皇を描いた『絵師草子』(14世紀)にも、天皇の読む綸旨は黒く描かれています。
ただし、この「宿紙」、漉き直しただけではきれいなダークグレーにはならないので、墨を入れてわざわざ黒くしたらしいです。
(そういえば、今の役所でも再生紙使用が義務のようになっていて、役所に納品する再生紙では古紙配合率の偽装問題まで起きました。
民間会社ではもう使わないような再生紙。さらに役所内部の文書は裏紙使用。でもこれはプリンターを詰まらせる元凶で、結局は古紙回収やシュレッダー行きでした。)
企画を担当された小島道裕先生、髙橋一樹先生、小倉 慈司先生の内覧会でのトークはとても面白く、中世文書の世界を十分堪能できました。
この展示は12月1日まで、そう、読めなくって楽しめる企画展です。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
古文書は女性方に人気有り、明大の博物館友の会の分科会に三つもあるが、どの会も盛況で人気がある。判読が難しいのでセッカチの私には苦手である。食わず嫌いかも知れない。歴博の勇気ある中世実在した著名人の真筆の展示、成功裡に終ってくれる事を陰ながら祈って止まない。
投稿: 福嶋昌彦 | 2013年10月10日 (木) 21:11
福嶋様
コメントありがとうございます。
古文書は私も講座は好きですが、読むのはまだまだ苦手です。
歴博の企画展は、読めなくっても楽しめるようになっています。
有名人のサインがいっぱい飾ってある居酒屋のつもりで、機会があったらご覧になってください。
投稿: さわらびY(ゆみ) | 2013年10月10日 (木) 21:21